時は2018年、ちょうどディープラーニング(深層学習)のブームが巻き起こっていた時のことです。

私は大学院の修士1年生で、医療機器向けの放射線計測システムの研究を行っていました。

当時私が研究していたのは、PET(ポジトロン断層法)と呼ばれる、がん検診などで使われる画像診断装置です。PETの画像再構成(画像を得るための処理)のプロセスは単純ではなく、当時の私は、3台のPCと無数のプログラムを組み合わせて、何時間もかけてなんとか1枚の絵を得ていました。

そこで私は、当時流行りのディープラーニングを用いて、画像を再構成することを考えました。具体的には、放射線源を特定の位置に置いた状態でセンサーのデータを取得し、その際の理想的な画像と合わせてニューラルネットワークを学習させれば、生のセンサーデータを入力するだけで直ちに画像を得られるようなシステムが出来上がるのではないかと考えました。

そこで、早速実験に取り掛かりました。GAGGシンチレータとシリコン光電子増倍管を自分で貼り合わせた手作りのガンマ線センサーの上にナトリウム22の放射線源を置き、位置をピンセットで地道に調整しながらデータを収集し、Pythonでディープラーニングを含めたデータ処理&画像表示プログラムを作成し、いろいろな試行錯誤の末、ついに一定の成果を得ることができました。そして、大学院の週次のゼミで、意気揚々と発表しました。

ところが!

指導教員である教授の反応は、あまり良くありませんでした。というのも、解析的な画像再構成が可能なシステムに対して、ニューラルネットワークというブラックボックスの処理を介在させる利点が無い、という指摘でした。また、教授はかつての第二次AIブームの際にAIを試したものの、結局はあまりめぼしい結果が得られなかった過去もあるようでした。

個人的には、途中の処理プロセスがかなり簡易になることがメリットと思っていましたが、よくよく考えてみれば、私が画像再構成で苦労しているのは大学の研究室にある限られた設備を使っているからであって、実際の医療機器においてはそんなことはほとんど問題にならなかったのかもしれません。

ちなみに、ディープラーニングを活用したコンピュータ検出支援(Computer Aided Detection:CAD)の機能を有したプログラム医療機器は存在しますが、これはCT/MRIなどが出力した画像に対して後からAIで解析するものであって、そもそもの画像再構成でディープラーニングを使おうとしていた私の試みとは少し異なるものです。

なお、実際の医療機器にAIを搭載することは法規制上のハードルもあります。また昨今では、医療機器に搭載するAIは欧州AI法(Regulation (EU) 2024/1689)で規定するハイリスクAIに該当することになり、さらなる規制強化が見込まれています。

話が逸れてしまいましたが、いずれにしても私の目論見は一瞬で頓挫してしまい、以来、ディープラーニングを大学院で使うことはありませんでした。研究室での苦い思い出の一つです。